shoot6 噂話

shoot 6「噂話」

「なあ、姉ちゃん。変な噂聞いたんだけど」
椎奈がルナ=ルチリアについて質問しに来てから何日か経ったある日の夜11時、夏樹が寝る支度をしていた千春に声をかけた。
「なんか最近フリックスやってる人にいきなり勝負を挑んでくる人がいるらしいよ」
「えー、何それ。そんな漫画みたいな」
取り合わない千春に対し夏樹が反論する。
「いや、実際に出会って負けた奴がいるんだって、しかも何人も」
「……あれ、友達もフリックスやってるの?」
「布教した」
それは置いといて、と一呼吸置き、続けた。
「目撃証言がいっぱいあるんだよ。金髪で顔に傷がある人に負けたとか、変な機体に負けたとか。防御力がヤバいのもいるって」
「金髪で顔に傷……ね」
千春は心当たりがある人物を一人思い浮かべた。そして彼女ならやりかねないと納得した。
「ま、気をつけるよ。そこから変な事件に巻き込まれたりすると嫌だしね」
「ほんとだよ、姉ちゃん首突っ込むから」
「どういう意味なの、それ」
溜息をつき、早く寝るよう促した千春はそのままベッドへ横たわった。

ーーーーー

真っ黒。何もない空間にただ一人ぼっち。歩けど歩けど何もない。いつか見たような夢を千春は見ていた。ふと白いものがこちらに近付いてきた。人だ。床につくほど長い白髪。病的なまでに白い肌。足首まである白いワンピース。透き通るような蒼い目。かつて千春に三日月状のパーツを渡した少女だ。
ずい、と少女がカードを3枚、千春に押し付けた。
「他のフリッカーと戦って、このカードを奪い取りなさい。10枚集めて、私に勝ったら願いを叶えてあげる」
か細いがはっきりと聞き取れる声で、少女がそう告げた。
「そんな都合のいい話、私は信じないよ」
「ふーん、そのフリックスのパーツ。渡したのって誰だっけ?」
少女はあたかも自分なら願いが叶えられるとでも言わんばかりに、挑発的な言い方をした。
「……わかった。前向きに考えるよ」
そう千春が言うと、少女は足から消えていく。
「せいぜい楽しませてよね」
消える寸前にそう少女が言ったような気がした。

ーーーーー

翌朝7時15分。けたたましく鳴る目覚まし時計を止めた千春が目にしたものは、夢で見たものと全く同じ3枚のカードであった。
「……はぁ、全く非現実的な……」
寝癖がついた頭を2、3回掻き、ようやく事の異常さに気付いた。
「そもそも夢で見たものが現実に出てくる事自体おかしいのに……最初に気付くべきだったよ……とりあえずドロシーに相談かな」
心配かけないために夏樹には黙っていよう、そう考えた千春はカードとルナ=ルチリアを制服のポケットに入れた。そして手早く朝食を摂り学校に向かうも、椎奈はいなかった。

ーーーーー

その日の放課後、千春は椎奈を探して街を歩いていた。体調を崩したのだと思い真っ先に家へ向かったものの返事はなかった。
「電話にも出ないし家にもいない……病気じゃないとしたら何なんだろう?」
家族のことなら首を突っ込まないほうが良いかな……それにしても連絡がないなんて。そう考え事をしながら歩いていると不意に肩を叩かれた。
「ひゃいっ!?」
「よっ、駄菓子屋以来だな。えーと……月の」
「流川です……なんだアリスさんですか」
変な声を出し後ろを振り向くと、かつて大会で相見えたアリスがいた。平日の午後、コスプレの聖地とは言えないような住宅街に赤いエプロンドレスは全くと言っていいほど馴染んでいなかった。
「どうだ、強くなったか?」
「もちろんですよ、って、私アリスさんに聞きたいことがあったんです」
「お、奇遇だな。俺も実はあんたを探してたんだ」
「それじゃ、私から質問してもいいですか?……まず、この辺で金髪の子見ませんでした?」
聞きたいことや話したいことは沢山あったが、とにかく親友の足取りを掴みたかった。
「俺以外にはいないみたいだったぞ」
「そうですか……じゃあ2つ目。最近フリッカーにバトルを仕掛けているってほんとですか?」
「そりゃまあバトルくらいするだろ」
「それじゃ3つ目。こんなカード知ってますか?」
そう言うと千春はポケットからカードを3枚取り出してアリスに見せた。
「知ってるどころか8枚集まったぜ。そんで、そいつを持ってるってことは俺からの質問は一つになったな」
「やっぱりそうなんですね」
一呼吸置き、続けた。
「最後なんですけど……答えにくかったら答えなくていいです。アリスさんはどんな願いを叶えたいんですか?」
「そりゃ決まってんだろ、強いライバルだよ。もっと強い相手と戦いたい、それだけさ」
「アリスさんらしいですね」
クスリと笑い千春は顔を綻ばせた。
「それじゃ今度は俺の質問行くぜ。一つだけだ。俺はあと2枚で十分、全部奪うようなこともしたくねえ。というわけでこいつを2枚ずつ賭けてバトルしないか?」
「いいですよ。でも、本当に願いが叶うと信じてるんですか……?正直怪しすぎて……」
「別に不治の病を治せとか死んだ奴を生き返らせろとか言ってるわけじゃねえんだ。あの白い奴と何回もバトル出来れば満足さ」
相当腕に自信はあるみたいだしな、とアリスは付け加えた。
「アリスさんの夢にもあの白い子が出てきたんですか?」
「ああ、ただの夢かと思ったらカードが置いてあってびっくりしたぜ」
「少なくともカードを揃えて会いに行けば仕掛けがわかります……よね?」
「多分な。そこも合わせて楽しみなんだ。さて、立ち話もなんだ、とりあえずバトルと行こうじゃねえか。フィールドは作ってある。そこでやろうぜ」
そう言うとアリスはニカッと笑いまっすぐに歩きだした。千春はその後を急いで追いかけるのであった。

  • 最終更新:2016-12-08 23:56:14

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード